−1−
|
頬に吹きつける風の意外な冷たさに あなたの心を見たような気がしました
もうに二度と逢えないでしょうか
やさしかった日々、甘えていた日々、いつのまにか腕をすりぬけて……
落葉の音にふっと気づいて振り返ってみた時には
ふたりの笑顔は淋しくすれちがい
季節の変化を告げる風が疲れた心を吹きさらってゆくのです
いつでも最後はそんなふうにして終わってゆくのです
もう二度と逢えないでしょうか……
|
(19××年1月5日/奈良・浄瑠璃寺にて)
|
−2−
|
幾度も幾度も季節がめぐり変わっても
たったひとつ
変わらないものがあると思っていたのに
そんな日はもう過ぎてしまったのでしょうか
どんなに淋しくても
もう振り返るのはやめましょう
涙を誘うだけ……
|
(1月5日/岩船寺にて)
|
−3−
|
本当は行き先なんて何処でもよかったのかもしれない。ただ独りで見知らぬ山里を歩いてみたかっただけなのだから……
昨日の夜行列車で東京を発った…… 初めて訪れる古都。静けさを求めて山の古径を歩き、古いお寺に足を留めてみた。鉛色の空。いつのまにか降り始めた雨に髪も肩も…… そして心までも濡れてしまいそうだ。こんな季節に冷たい雨のなか、こうして静寂に包まれたお寺に独りでいると、遠く過ぎ去った日々のいろいろな想いが胸をよぎるようで、せつなさに耐えかねて泣きたくなってしまう。
a sentimental wanderer! いつのまにか独り歩きを覚えてしまい、いつのまにかもう、幼くて楽しかったあの頃の私には戻れなくなってしまい…… 無邪気に笑っていた懐かしい人たちも、みんな大人になってしまった。
心をおちつけたくて仏像を眺めても悲しくなるばかり…… これから何処へ行こうか……
|
(1月5日/再び浄瑠璃寺にて)
|
−4−
|
夕暮れの里
すれちがう人もいない山のみち
単調に続く冬景色をながめながら
ひとり、ゆっくりと歩いて行く……
静けさ
そして寂しさ
|
(1月5日/正暦寺にて)
|