Marian 1998年作品集 「碧き愛」


星のごと聖夜の街に灯は満ちてひとり行く身の影に語らん

君去りて薄紅のひとひらの散りて哀しき山茶花の梅雨

幾たびか送られ来たる坂道に どんぐりひとつ落ちて微笑む

「好き」「嫌い」呟きながらどんぐりを拾う指先「好き」で止まりぬ

夕映えの道を辿ればひとひらの紅き落葉に思い乱れて

手のひらにのせし木の葉の燃ゆる色ひとこと書きたし熱き想いを

秋の陽に燃ゆるがごとき紅き葉は恋しき人の言の葉に似て

静寂(しずか)なる碧き宇宙(そら)にも似し君の哀しき眸(め)のなか我は漂う

通り雨 濡れたる髪の匂いたち我を愛しと引き寄せし君

雷鳴の轟きわたりて通り雨 熱き想いを抱きて濡れ行く

留守電に残せし君の「元気かい?」聞いては頷く夏の日の午後

遠き日に逝きし面影追う空に打ち上げ花火の鮮やかに散る

はなやかに空に花火の煌きて君在りし日の夏は還らじ

藍染めの浴衣の肌にふれる風 袖に寄り添う人もなき夜

観覧車イルミネーションはなやかに水面に映れど何故か哀しく

うたかたの想いをのせて観覧車まわれよまわれ二人の季節

夏祭り人ごみのなか突然に君のくちづけ遠雷を聞く

かの人の語りし曲を独り聴く時間(とき)のはざまに迷いこみし夜

「虹だよ」と君が教えしフランス語 二人の恋もラルクアンシエル

“許されぬ愛”はあらずと仰ぐ空 風を追うのか夏鳥が翔ぶ

君といた儚き時間(とき)をなぞりつつ髪洗わずに煙草の移り香

君知らぬラジオネームでリクエストかかりてせつなし君好きな歌

じゃれつきて戯る犬の可愛さに抱きあげそっと君の名で呼ぶ

濃く淡く青きインクの匂いたつ君から届きしハッピーバースデー

我がために君が選びしビートルズいつしか君の声にも聞こゆ

ときめきをムーンライトでシェイクして君の名つけし今宵のカクテル

いつまでも友でいたいと思う日の陽射しは熱く胸を貫く

心まで碧く染まりし夏空に想い出たどりてきょうを過ごさん

短冊に書きにし願いのひとことを知るや知らずや風は戯る

今われに翼があればこの空の夕陽に染まりて西へ舞いたし

この服が好きだと言いし かの人の面影浮かぶ衣替えの日

暗き道わが名呼ばれて振り向けば夜風に揺れる竹のささやき

傘まわし雫とばせし幼き日なつかししぐさ そっとしてみる

葉の一枚 梢の一枝いとおしき切られし大樹に雨の冷たし

暮れなずむ庭に揺れ咲く紫陽花の移ろう色にやるせなき雨

こやみなく降る雨悲し芦屋川 浮かぶ面影とどまりもせず

過ぎし日の愛の言の葉つなげども心のパズルきょうも崩れぬ

留守電に残せし歌は過ぎし日の貴方のやさしさ きょうも消しかね

この坂はどこまで続く振り向けばふたりの影は淡く儚く

涙雨あがりて青葉に光る珠ほろほろ落とす風の戯れ

出すすべもなきを知りつつアドレス帳君が残せし文字のむなしさ

花びらを空に向かいてひろげ咲き幸せ受けんとハナミズキ揺れ

新緑の流れるようなその色に染めて送らんこの胸のうち

肩寄せて語らいながら行く道の月は雲間に見えつ隠れつ

涙して仰げば空に星ひとつかなわぬ願いまたかける夜

ふり返る想いを絶ちて別れこし登る坂道月影もなし

つかの間のメールチャットもふと絶えて夜のしじまに独り身をおく

入学の少女に添いし若き母晴れの日迎え紅の美わし

花冷えの朝の小径にひともとの桜は静かひそやかに咲き

二人いて満ちたる思い言葉なく花の下蔭歩くやすらぎ

咲く花も散りゆく花もさまざまに人の心にしみる春の日

遠き日の人も愛でにし花桜 色香変わらず時は移ろい

ふくらみし桜の蕾せつなくも朝の花冷え春雨の降る

パソコンのそばに飾りし梅の香もメールに添えるすべもなきまま

なにごともなきがごとくに別れ行く君の背照らす月のせつなさ

 
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