古暦命を削るごとく減る
癒近き粥炊いてをり夜の時雨
削がれたる山の片側粧へる
城山はすぐ日の翳り帰り花
喪へ参ず朝の山茶花散り止まず
栗飯や家族揃ふはいと稀に
曼珠沙華崖の彼方の波無限
忘れ来し帽取りにゆく夕花野
逝く秋や川に灯こぼす船暮し
秋蝉の声を挽歌と戦禍の碑
露けさの屈みて小さき扇塚
打水のたっぷりと虚子記念館
嫁せし子と出合ふロビーの花氷
漁師等の早やも酒盛月見草
引越せる向ひ家に鳴り貝風鈴
著莪濡れて階の高きに神在す
梅は実に身ほとりの些事湧くごとし
子の嫁して食卓に薔薇多めなる
黴匂ふ嫁せし子の部屋灯せば
三山の暮色を違へ蝉時雨
雑貨屋に夕日満ちたる水中花
熔岩山へ道細りゆく月見草
満目のみどりに没し旅にあり
万緑に雨後の輝き句碑除幕
青葉宿水仕の音の夜更まで
裏木戸の連翹撓め豆腐買う
粉薬飲みて噎びし暮の春
軍港でありし名残や藪椿
梅を見しあとのしばらく黙の刻
夕暮の川の量感猫柳
故郷へ繋がる線路野火早し
電光板明日の雨告ぐ朧かな
風花や野菜の値段聞き返し
枝切に大工のメモや日脚伸ぶ
過去刻む顔をまじまじ初鏡
喪の家の洩れ灯映れる寒の川
初時雨通夜の篝火頬照らし
母の髪薄きを梳きて冬麗
築地川船の暮しに菊咲かせ
対岸に列なし翳る曼珠沙華
すこしづつ老の実感薄紅葉
手を浸す秋水に雲流れけり
喪帰りの揃ひて駅へ大西日
盆の客送りし後の香を足す
夕顔に灯さず話続け居り
駈足で古稀の近づく桐一葉
竹落葉倦まず眺めて古稀近し
牡丹の雨の色持ち閉ぢにけり
河鹿鳴く夜は天地の音消えて
幕間の役者談義や草の餅
雨の夜の蕗さみどりに煮てひとり
若竹に夕日華やぎ庵古る
明るさへ向けば紅梅枝張りぬ
灯(ひとも)してのち紅梅の雨と知る
懇に梅を活け居る背筋かな
古着屋の一壷の梅の白さかな
家族みな稀に揃ひて雛の夜
紅つばき籬に展き海平ら
凡に生き朝の初湯を溢れしむ
城壁に日の廻りたる冬の草
落日のいよよ静かに浮寝鳥
海側の屋根の荒みや石蕗の花
花の闇宴を遠く歩みをり
草朧ろ門辞してより酔少し
遠野火や小さき駅の軒傾ぎ
灯してのち紅梅の雨と知る
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