大阪府茨木市・川辺えい子 様

(白扇社箕面支部会員)

母の背に泣き寝入る子や月見草

霊山のケーブルゆっくり夏木立

炎帝に置き処なき病む身かな

滴りに五百羅漢のしたり顔

薫風や児等が見せ合うにぎり飯

訥々と絵本読む子や窓小春

長々と猫も寝ころぶ日向ぼこ

着ぶくれて網を繕ふ漁師かな

稜線の定かにあらず冬霞

鬼灯を鳴らす児の歯の白さかな

稲妻に裂けたる雲の層厚し

秋暑し庇の深き大伽藍

石蕗や軍手干したる町工場

たぐれども蔓したたかや烏瓜

思ひきり落書きしたき秋の空

野菊濃し前だれ赤き石仏

水引の紅からまりし石畳

栗をむく媼の深き手じわかな

こほろぎやひと夜の憩い草の宿

子をあやす母の手籠に粽かな

鹿の子の初立つ脚のふるえかな

河骨の黄を浮かばせてうす曇り

滝落ちて丈余のしぶき放ちけり

梅雨の寺番傘一本厨口

春の泥わだちの跡の戻り水

東風吹いて机の上のうす埃

生れし子に父と名乗りぬ春の月

恩讐は海の彼方や流し雛

エンピツを削る木の香や春隣

川辺えい子様は、2000年6月4日急逝されました。
心よりご冥福をお祈りいたします。

 
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