母の背に泣き寝入る子や月見草
霊山のケーブルゆっくり夏木立
炎帝に置き処なき病む身かな
滴りに五百羅漢のしたり顔
薫風や児等が見せ合うにぎり飯
訥々と絵本読む子や窓小春
長々と猫も寝ころぶ日向ぼこ
着ぶくれて網を繕ふ漁師かな
稜線の定かにあらず冬霞
鬼灯を鳴らす児の歯の白さかな
稲妻に裂けたる雲の層厚し
秋暑し庇の深き大伽藍
石蕗や軍手干したる町工場
たぐれども蔓したたかや烏瓜
思ひきり落書きしたき秋の空
野菊濃し前だれ赤き石仏
水引の紅からまりし石畳
栗をむく媼の深き手じわかな
こほろぎやひと夜の憩い草の宿
子をあやす母の手籠に粽かな
鹿の子の初立つ脚のふるえかな
河骨の黄を浮かばせてうす曇り
滝落ちて丈余のしぶき放ちけり
梅雨の寺番傘一本厨口
春の泥わだちの跡の戻り水
東風吹いて机の上のうす埃
生れし子に父と名乗りぬ春の月
恩讐は海の彼方や流し雛
エンピツを削る木の香や春隣
|